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※インタビュー前に、ご自身を形成したものや人について教えていただきました
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独立期間に経験した逆風がその後の人生の糧に
私は昔から絵を描くのが好きだったことと、高校生の時に受けた職業適性検査で建築設計に対する適正だけが良かったことをきっかけに、建築の道に進むことを決めました。それで大学では建築学を専攻し、2001年に卒業した後は、学生時に指導していただいた教授が主宰する建築設計事務所に就職しました。当時、自分の周りでは独立を目指すことは珍しいことではなく、私もまたそういったキャリアパスを描いていました。その夢を追って2008年に独立し、大学時代の同級生と共同で設計事務所を立ち上げました。
しかし、事務所を立ち上げた2008年8月の翌月にリーマンショックが起き、その1年後には「コンクリートから人へ」の民主党政権が爆誕。さらにその1年半後の2011年3月には東日本大震災が発生するなど、さまざまな時代の変化や逆風を受けたこともあり、独立から5年後の2013年には会社員に戻る決断をしました。いま振り返ると、その5年の苦しい経験が、私のキャリアにおいて大きな転機になったと考えています。当時は独立を続けられなかったことを「失敗」と感じていたものの、その経験があったからこそ、「焦らず、長く続けられる仕事の仕方」を意識するようになりました。若い頃は「早く成果を出さなければ」という焦りがありましたが、40代後半になった今は、地道にお客様に貢献し、一つ一つ価値を提供し続けること、そして関わる方々と良好な関係を築くことを何よりも重視しています。
建物を建てる意味を深く考えることを大切に
建築(意匠)設計の仕事でお客様に貢献するために重要なのは、「何のために建物が必要なのか」という本質的な問いを常に考えることだと思っています。最近であれば、少子化や工事費高騰といったような社会的背景もあり、新しく建物を建てるハードルが以前より上がっていると感じます。そのような状況であっても、クライアントが建物を建てる意味を深く掘り下げ、どうすれば期待された以上の価値や魅力を提供することができるか考え抜けば、必ず満足していただけるものができると思っています。
仕事のやりがいや達成感は、やはり完成した建物を人々が実際に利用している光景を見た時に最も感じます。特に、前職の組織設計事務所で2013年から約7年間にわたりデザインコンセプトづくりから現場の常駐監理まで担当させてもらったJR横浜タワー(JR横浜駅の駅ビル)に関しては、多くの利用者がいることもあり、完工した時は格別な感動や達成感を覚えました。建築の仕事は決して一人で完結するものではなく、川上から川下まで多くの方々と協力して一つのものをつくり上げるものであり、私はチームで大きなプロジェクトを成し遂げるこの仕事に楽しさを感じています。
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「師」から受けた影響
先ほど話した、大学時代の指導教官であり、最初に勤めた会社のボスでもあった方は、私のキャリアに大きな影響を与えた、いわば「師」の一人です。また最近、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)に関する書籍を3年かけて書いたのですが、その本を共同執筆していただいた方からも、その知識量や思考の深さなどを通して、いろいろなことを勉強させていただきました。その方も私よりも20歳近く年上であり、長い時間をかけて一つのものを一緒につくらせていただいた大先輩という意味では、やはり私にとって「師」のような存在だと勝手に思っています。そういった先輩方のやり方を横で見ながら、実際に手を動かして学ばせていただけたことに、感謝しています。
プライベートに関しては、最近は自分で手を動かしてものづくりをしたり、スポーツジムに行って体を動かしたりしています。子どもの一人が受験生ということもあり、家族で外出する機会は減りましたが、家族との関係が自分のキャリアに影響を与えることは多々あると思います。これまで苦労をかけてきたこともあって、妻には頭が上がりません(笑)。少しずつでも恩返しをしていきたいと思っています。
昔より働きやすくなり仕事とプライベートの両立を意識
建設業界に勤める多くの方々と同様、私も以前はとても忙しく働いていましたが、2024年4月1日から建設業にも残業に関して罰則付き時間外労働上限規制が適用されたことで、仕事とプライベートは両立しやすくなっていると思います。少なくとも、設計職に関しては昔よりも働きやすくなったと感じています。
私は建設業界の魅力は、まさに竹中グループが「想いをかたちに 未来へつなぐ」というメッセージを掲げているように、「クライアントの想いをかたちにすること」だと思っています。設計者として絵(図面)に起こしたものが皆の協力によって「かたち」となり、それを人々が喜んで使っている姿を見ることが、この仕事の一番のやりがいであり、また業界の魅力でもあると感じています。
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建設業界の発展には技術面のナレッジ共有が必要
建設業界の現状に関しては、ご存じの通り労働力不足や高齢化といった課題がある一方で、技術的な変化が進んでいます。最近BIMに関する本を書いたと先ほど言いましたが、BIMのような技術は、時代の変化に沿って設計業務を効率化するうえで不可欠だと考えています。他方で、近年の法律の複雑化や規制の厳格化により、設計がどんどん難しくなっている気がしています。以前のように、先輩の仕事のやり方を見て盗むという方法に頼るだけではなく、形式知としてナレッジを共有することの重要性が増しているように感じます。また、BIMをはじめとするデジタル技術の分野ではその知見を少しでも多く業界全体として共有し、連携していくことが業界の発展にとって重要だとも感じています。
私は長期的な人生設計があまり得意ではない性格らしく、自分自身の今後のキャリアについて特に明確な計画は立てていません。今まで何度か建築設計の仕事をやめようかと考えたこともありますが、途中でやめなくてよかったと将来思えるように、これからも目の前の仕事に真摯に取り組み、職場の関係者やクライアント、協力会社と対話を重ねて、良いものをつくり続けていきたいですね。
※2025年8月に取材した内容に基づき、記事を作成しています。