キャリア

2026年02月06日

時代背景やクライアントの意向を深いレベルで理解し 建築を通して、誰かの毎日が心地よく豊かになる社会を目指したい

学業修了後、地元・茨城県水戸市で住宅メーカーに就職し、建設業界でのキャリアをスタートさせた中村彩乃さん。その後、大手ディスプレイデザイン会社に転職して空間デザインの仕事に就き、さらにはアトリエ系設計事務所で建築士として経験を積んだ後、独立。その後、「AN||AT中村彩乃建築設計事務所」を立ち上げた。現在は、東京と茨城の二拠点をベースに活動する中村さんに、建築士として大切にしていることや、地方創生、女性の働き方についてまで、率直な意見を話してもらった。

目次

>>>> 

04nakamura.GIF
※インタビュー前に、ご自身を形成したものや人について教えていただきました

<<<< 

子供の頃の原体験が建設業界へ進むきっかけに

私は、大学では生物学を専攻していました。ただ、将来について考えた時に、自分がそうした関係の仕事をしていく未来がしっくりこなかったんです。それで大学を中途退学し、興味のあることについて再考した結果、建築の専門学校に入学しました。自分の過去を振り返ると、子供の頃に住宅の間取り図を見たり、地元の美術館でダンボールの家を作ったりした原体験などから、空間や建物に強い関心があることに気付きました。当時は特に内装に興味があったので、建設業界に進むことを決めました。

専門学校卒業後は、地元で大手住宅メーカーに就職し、インテリアコーディネーターとしてキャリアをスタートさせました。その会社ではワークライフバランスが実現できたので、プライベートの時間を確保しつつ、興味のある分野で自由度の高い仕事をすることに満足していました。ただその一方で、「もっと挑戦したい」という欲求が芽生え、大手ディスプレイデザイン会社に転職しました。より公共性が高く、1つの施設に対して多くの人が使うような仕事に携わりたいと考えたのが転職の主な理由です。その会社では、前職での個人客を相手に多くの案件をこなしたスタイルから、1つのプロジェクトに深く関わるスタイルへとシフトしました。

仕事に対する熱意はキャリア当初から変わらない

私は、仕事が楽しければ、たとえ長時間労働であっても充実感を覚えるタイプで、仕事に対する熱意や向き合い方は、キャリアを通じてほとんど変わっていません。キャリアの方向性を変える転機となったのは、書籍などを通して知っていた建築家の方々を身近な存在に感じ始めたことでした。身近な人が日本を代表する建築家の事務所に勤めていたこともあり、それまで自分とは縁遠いものだと思っていた建築の世界を、現実的な選択肢として意識するようになりました。

建築(意匠)設計の仕事で私が重要だと考えているのは、クライアントの意向はもちろん、時間軸や周辺環境との関係性まで含めて総合的に捉えることです。その空間が建物を利用する人々や周辺環境にどのように貢献できるのかという点を意識しています。クライアントが気付きにくい部分まで深くヒアリングとリサーチをし、ブランディング的な視点も取り入れながら、持続可能で意味のある空間づくりを心がけています。

「これまで携わった中で特に印象に残っている仕事は?」と質問されたら、設計事務所に在籍していた時に手がけた、古民家を宿泊施設に改修したプロジェクトを挙げます。元の家屋は築年数が古く、昔は頻繁に氾濫した川の近くにあり、災害を受け入れるためのユニークな構造を持っていました。そこでこの家屋の特性を尊重し、建築基準法を守りつつ、吹き抜けの一部をあえて残すなど、建物に備わったストーリーを語り継ぎ、体験していただけるように設計しました。その甲斐あって、この宿泊施設は雑誌でも紹介していただくなど、大きな達成感を得ることができました。

>>>> 

03nakamura.webp

建築家は初期段階から地方創生に関わるのが得策

私も地方創生に携わっていますが、建築家は早い段階からプロジェクトに関わると精度が上がると思っています。まちづくりのプロジェクトや都市計画の初期段階から建築家のような専門家が入ることで、より実践的かつ継続的な視点でまちづくりができるのではないでしょうか。行政や地域住民と連携し、単発ではなく、「そのまちがどうなりたいのか」という根本的なビジョンの創出から関わることで、より良い結果が生まれると考えています。

女性技術者のキャリアと働き方に関しては、これは建設業界に限ったことではないと思いますが、女性がより働きやすくなるためには、キャリア設計のための事前知識の共有が重要だと考えています。私自身、出産経験がありますが、経験してから知った情報が多かったので、もっと早く知っていればより良い選択ができたのではないかと思っています。そうした経験からも、女性技術者の方々が、自身の体の変化も踏まえたキャリアプランを早期に考える機会があると良いのではと感じています。適切な情報提供のもと、キャリア形成を検討する機会や理解のある環境を用意することが、働きやすさにつながるのではないでしょうか。

茶道家としての活動や旅がキャリアに影響

私は、建築士の他に茶道家としても活動しています。茶道が「総合芸術」であることから、もともと興味がありました。前職の特色が日本の伝統を現代に表現することだったのとも相まって、茶道を通じ、日本の伝統技術を現代社会で表現する思考や技術、空間における人間の振る舞いのバランスなどをより深く理解できるようになりました。また、それが自分の本業である建築や空間表現にも影響を与えていると実感しています。

また、私は旅からも多くの影響を受けてきました。特に印象に残っているのは、世界最大手の民泊マッチングサービスであるAirbnb(エアビーアンドビー)が日本でまだ普及する以前に海外で民家に滞在した経験です。いわゆる観光地巡りやホテルステイでは味わえないような地元の人々の生活を体験でき、とても楽しむことができました。普段の生活圏とは異なる場所に滞在してみないと味わえないローカルな体験をしたことが強く心に残っています。私が「行くと元気になる場所、心が落ち着く場所」は、建築家の西沢立衛さんが設計した豊島美術館がある香川県の豊島です。豊島にはこれまで3度ほど行きましたが、訪れる度に心身がチューニングされるような感覚を覚える場所です。

 

>>>> 

02nakamura.webp

<<<<  

周囲でしっかり機能する建築物をつくる仕事がしたい

キャリアについての今後の展望は、自身の仕事における軸の一つである「文脈を大切にした設計」を通じて、誰かの毎日が少し良くなるような案件にコンスタントに携わっていくことです。現在は地元・茨城県と東京の二拠点をベースに全国対応しているので、その中で培った経験を活かし、建築や空間を通じて地元を含めた地方創生やまちづくりに貢献していきたいと考えています。

私は子どもが生まれたことで、実体験を踏まえながら、課題に取り組む中でどうすれば社会に対して良いアプローチができるのかという意識を強く持つようになりました。一つ一つの案件を社会との関係の中で捉えて実装していくことで、建物や空間の利用者やその周辺の人々の生活を少しでも良くしていき、社会に貢献できれば幸いです。


※2025年9月に取材した内容に基づき、記事を作成しています。

この記事でキャリアした方のプロフィール

  • 氏名 中村 彩乃(なかむらあやの) 氏 
  • 所属企業名 AN||AT中村彩乃建築設計事務所:代表
  • 従業員数 10人未満
  • 職種 建築家・茶道家
  • 年代 40代

この記事のキーワード

Share