キャリア

2026年04月10日

「今ここ」の業務に全力で向き合えば仕事が楽しくなり、充実感を得られる

この記事のポイント

  • 苦労して技術士の資格を取得し、キャリアが変わった
  • 「自分は3番目」という考え方が持つ意味
  • 人間にしかできない仕事を追求する

目次

地元の市役所で20年以上、幅広い業務を担当した経験を活かして、建設コンサルタントとして活躍する猪口公志さん。数年にわたる努力の末に、建設技術における最高位の国家資格である「技術士」の資格を取得したことが、自身のキャリアで大きな転機になったという。現在は新天地である日本設計株式会社で部長職を務める猪口さんに、「自分は3番目」と考えることの重要性や、楽しんで仕事をするための秘訣、若い世代の技術者に伝えたいことなどについて語ってもらった。

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※インタビュー前に、ご自身を形成したものや人について教えていただきました

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市役所職員時代に培った全方位的なスキル

私は地元・北海道北見市の国立大学の工学部土木工学科に進学しましたが、当時は建設業界に対して強い関心を抱いていたわけではありませんでした。しかし大学で学ぶ中で、土木が「シビルエンジニアリング=市民のための工学」であるという考え方を知り、この分野が社会基盤を支える重要な役割を担っていることを理解したのです。それにより、自身の進んだ道が社会にとって必要不可欠であるという実感を持つようになり、「この分野なら将来的にも仕事に困らない」という安心感を得ました。

最初に就職したのは、私が指導を受けていた剣道の先生から紹介してもらった地元の建設コンサルタント会社です。自ら企業を比較検討して選んだというよりも、流れの中で自然に就職が決まったという感覚が強く、キャリア形成という意識は当初あまりありませんでした。当時の労働環境は働き方改革が進んだ現在と比べて非常に厳しく、図面も手書きで作成していたので夜遅くまで働くのが当たり前でした。そうした中で、どれほど良い設計をしても、最終的な決定権は発注者である市役所にあるので、「自分の提案が理解されないのなら、自らが決定する側に行って、より良い事業を実現したほうがいい」と考えるようになったのです。

地元の市役所試験は10倍という高倍率でしたが、夜10時まで図面を書いた後、一般常識問題などの試験勉強に励み、公務員試験に合格することができました。市役所勤め時代は図面の作成から数量算出、さらにはインデックス貼りや図面を折る作業といった細かな事務作業までこなしました。「やったことに無駄なことは一つもない」という信念を抱き、どんな仕事も「雑にやるから雑用になるんだ」という気持ちで取り組んだのです。この時期に培った「現場の裏側」を知る全方位的なスキルが、後に再び建設コンサルタント会社に勤めた際、図面も書けて管理もできるという「オールマイティな技術者」としての強みとなりました。

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技術士の資格取得が大きな転機に

私のキャリアにおいて、大きな転機となったのは技術士の資格を取得したことです。発注者であっても専門性を高める必要があると考えて挑戦を決意しました。仕事と家庭を両立しながらの勉強には強い意志が必要でしたが、妻の支えもあり、2回目の受験で合格を果たすことができたのです。資格取得の過程では、夜間や早朝の時間を活用して継続的に学習に励みました。学生時代の勉強と異なり、実務と直結した内容であったため理解が深まりやすく、学ぶこと自体に面白さを感じるようになりました。目的意識を持った学習が、知識の定着と実務能力の向上につながったと感じています。

私自身の思考の特徴として、過去の嫌な出来事よりも面白かった経験が強く記憶に残る傾向が挙げられます。この傾向を自分では「ポジティブな性格」と捉えており、失敗や苦労も時間が経てば笑い話に変わるという感覚を持っているのです。このような前向きな記憶の蓄積が、長く仕事を続けるうえでの精神的な支えとなっています。

「楽しんで仕事をする」ためには、剣道とも通じる「今この瞬間に集中すること」が重要だと考えています。将来への不安や結果への執着にとらわれるのではなく、目の前の業務に全力で向き合うことで、自然と充実感が得られるからです。集中している状態では楽しさや苦しさを意識する余裕すらなく、その没入感自体が仕事の価値を高めてくれます。また、私は飽きっぽい性格であるため、同じ作業を繰り返す仕事には向いておらず、現場ごとに内容が変わる建設業は非常に適していると感じています。役所時代においても設計、現場対応、調整業務など多岐にわたる業務を経験し、その変化の多さが仕事の面白さにつながっていました。

日本設計(株)で新たな価値を生み出したい

2026年1月から日本設計株式会社に勤めています。弊社に転職した理由は、若手社長への世代交代という組織の変革期に関わることができる点と、マネジメント業務への関心が高まったことにあります。これまでは2億円規模の案件を回すなど、主にプレイングマネージャーとして働いてきましたが、そうした現場中心の働き方から一歩進み、組織全体を見渡す立場で仕事をしたいという意欲が生まれたのです。世代交代のタイミングに関わることで、自身の経験を活かしながら会社に新たな価値を生み出せると考えました。

私は仕事のやりがいは、特定の大きな成果だけでなく、日々の小さな業務の中にも存在すると考えています。資料作成一つにしても、工夫次第で相手にとって分かりやすく価値のあるものに変えることができますし、そうした積み重ねが結果として大きな成果につながるという意識を持っているのです。

また、私は「自分は3番目」という考え方を重視しています。仕事において、1番に考えるべきは「発注者」の意図であり、2番目はその施設を利用する「公衆(一般市民)」の利益です。自分の都合や組織の利益を優先して判断するのではなく、社会全体にとって何が最適かを常に意識することが、技術者としての責任であると考えていますし、この利他的な優先順位を守ることで、仕事の質も劇的に向上します。自分の知識を誇示するのではなく、それが誰の、何のために役立つのか。その本質を見失わない謙虚な姿勢を持つことが大切です。

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会社近くの山下公園にて

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AIに代替されない領域に仕事の面白さがある

技術革新が進む現代において、私は「AIにできること」と「人間にしかできないこと」を分けて考えています。図面作成や計算といった一部の業務はAIに代替される可能性がありますが、建設業の本質である「現場条件を踏まえた判断」や「総合的な意思決定」、そして「公衆に対する優しさ」は簡単には置き換えられません。マニュアルやデータだけでは処理できない、現場ごとの微細な調整や意思決定こそが技術者の付加価値であり、その領域にこそ仕事の本質的な面白さが存在します。建設は単なる作業ではなく、状況ごとに考え抜く仕事であるため、人間の経験や直感、責任ある判断が不可欠だと思います。

若い技術者には、技術力だけでなく法律や制度の理解が重要だという点を伝えたいです。基準や規則の背景にある考え方を理解することで、単なる作業者ではなく、状況に応じて判断できる技術者へと成長できます。知識を点ではなく体系として捉えることが重要なのです。部下に対しても、特定の作業だけを繰り返させるのではなく、自分で考え責任を持って取り組む環境を与えることで、すべての業務をトータルでできるように育てたいという方針を持っています。

私自身のキャリアに関しては、先述しましたように、最初は「上下水道部門:下水道」の技術士の資格を取得し、その2年後に「総合技術監理」部門で取得。さらに50代後半で「上水道及び工業用水道」部門においても技術士の資格を取得しました。今後はこれらの資格も活かしながら、ライフラインの専門家として、老朽化した社会資本の再構築に貢献したいと考えております。
    
※2026年3月に取材した内容に基づき、記事を作成しています。

この記事でキャリアした方のプロフィール

  • 氏名:猪口公志(いのぐち たかし)氏
  • 所属企業名:日本設計株式会社
  • 従業員数:約30人 
  • 職種:建設コンサルタント/部長職
  • 年代:60代

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